滋賀県草津市のお寺の本堂の調査に行ってきました。
築250年以上の歴史の深い建物です。
建て替えか、改修かの判断のために限界耐力計算という耐震診断をするための調査を行いました。
屋根裏や床下にも潜り、現況図面の採寸も行いました。
小屋裏の調査
屋根裏には本堂の天井板を外して梯子をかけて入りました。
角部分の板が外れるようになっていることが多いです。
お寺の屋根裏は大きく、梁の上を伝って奥まで進むことができます。
梁として使われる丸太は直径30cm以上の立派な松が多数使われています。
屋根面は垂木の3/4が竹で構成されていて、野地部分も竹の割材が使われています。
小屋裏の中では棟札も確認されました。
宝暦7年と書かれていてその年に上棟したと思われます。資料では宝暦8年建立となっていますので間違いなさそうです。
屋根裏では一部劣化が見られましたが、現状で雨漏りをしている雰囲気ではないです。
他に大きな問題は見当たらなく、屋根材を葺き替えるにしても構造材の入れ替えまでは必要ないと思われます。
床下の調査
改修にあたっては床下の状態も工事内容に大きな影響を与えます。
床下には縁の下から入りました。古い建物に多い「石破建て」の造りです。
柱が地面まで伸びていて、石の上にのっているシンプルな造りです。
床下はシロアリの蟻害や地盤の沈下など建物の構造に大きく影響する劣化が生じやすいので非常に大切な調査になります。
かつてシロアリの被害があったようで、古い部材には蟻害の痕跡が確認されましたがその横に新めの補強部材が確認されました。
また柱には防蟻処理の痕跡が見られます。シロアリの問題は一度対策されていて、現在はシロアリはいないと判断しました。
採寸調査・劣化調査
地上でも調査は行われています。
まず、既存の図面がない場合は平面図、立面図、断面図などの基本図を起こすための調査を行います。
それは耐震診断のための情報にもなります。
合わせて建物の劣化状況の確認も行います。
建物の傾きや屋外は屋根や外壁、屋内も天井、壁、床の劣化がないか調査します。
計算上の耐震性能は建物が健全な状態の数字です。劣化によって耐震性能が低減されているはずなので、その程度を調べる必要があります。
劣化調査は建物の修繕の見積もりにも使えますのでとても有用な調査だと感じます。
屋根の調査は360度カメラを屋根の上まで伸ばして撮影します。
割れやズレなどの大きな劣化がないか調査します。屋根をやりかえるのか、そのままでいいのかは補修の工事費に数百万円の影響を及ぼします。
建物調査について
耐震診断をすることで既存の建物の耐震性能を明確にすることができますがそれ以上の情報も得られます。
調査と合わせて得られる既存建物の図面や劣化状況などは改修工事の計画をするにあたり非常に効果的なものになります。
このような調査をしないで一か八かで改修をするのは、人間が精密検査なしで手術をするようなものです。
天井の雨染みが気になるからと言って天井だけを替えても意味がありません。雨漏りをまずは止める必要があるのです。
建物状況をまずは的確に確認し、適正な処置を下すことが長期的に見るとコスト減になり、また建物の長寿命化に効果があると考えます。
魅力的な建物を後世に残すためにも、まずは調査をすることをお勧めします。
WASH建築設計室 日野弘一