ヒノキの板張りのお風呂。
今までカビずに使っていましたが、約5年が経ったある時からカビが発生してしまいました。
カビ取りはできますが今回はさらに手を加えてヒノキの”漆ぬり”を実践しました。
これがカビが生えてしまった様子です。
しっかりとカビが生えてしまいました。竣工後はずっと綺麗に使ってもらっていました。
お子さんが大学に進学してからお風呂の湯をはっている時間が長くなり、そのタイミングでカビてしまったとのこと。
カビにくいよう設計しているつもりではありますが、状況によってはカビが生えてしまうのだと改めて認識しました。
なにはともあれまずはカビ取りです。
私たちはヒノキの板に撥水塗料などは塗っていませんので”カビすけ”などのカビ取り剤を使うと比較的簡単にカビは落ちます。
家庭でも”カビキラー”などを塗っておいてもらえば小さなものなら落とすことができます。
撥水塗料を塗っていてもカビが発生するときは発生します。
むしろ、撥水塗料の内側でカビが生じるのでカビ取り剤が効かないので、一旦塗料を削り落としてからカビ取りをすることになり、大きな手間になります。
ただ、この写真のように白っぽくなってしまい木の色身が変わってしまうのが欠点です。
このままでも解決と言えば解決ですが、今後同じようにカビがはえるリスクがあるため今回はここから対策をします。
この状態から漆ぬりをして防水性を高めることにしました。
漆を塗ると強い膜ができるので防水性が上がるとともに、着色がされますのでカビの跡が余計目立たなくなります。
そして何と言っても漆ぬりの高級感は今まで以上に”特別な”浴室空間を演出してくれます。
石川県金沢市の沢幸漆店から沢田欣也氏にお越しいただきました。
早速塗装しない部分の養生作業に入ります。
漆は乾かすのに湿気が必要になります。
ですので乾燥のためにいつもはムロを作って湿気を閉じ込めるのですが、今回は浴室ということで浴室の入り口を閉めればそのままムロとして使えるのでとてもやり易いです。
まずは下塗りのベンガラを塗っていきます。
ベンガラは鉄粉ですので液体の柿渋に混ぜて塗っていきます。
柿渋は本物の柿渋です。とても独特な匂いが充満します。
ベンガラは赤っぽい色から黒っぽい色までありますが、今回は焦げ茶色になるものを選んでいます。
この下塗りで仕上がりの色味が決まってきます。
換気扇やシャワーのホルダーなどは色がつかないようにしっかり養生しています。
また、壁や天井のヒノキ板は”本実加工”がされた板になります。
板と板の隙間の”サネ部分”に塗料が付くようにしっかりと塗り込むのがポイントです。
ベンガラを塗り終わったのがこのような状態です。
ベンガラは鉄粉ですのでマットな感じに仕上がります。
ここまで終えてお昼休憩です。その間に概ね乾きますので午後からついに漆を塗る作業に入ります。
筒の容器に入っているのが漆です。
いわゆる生漆で、一般で売っている漆風塗料ではありません。
触れるとかぶれてしまいます。それを手慣れた手つきでヘラで塗っていきました。
現場で塗る漆塗装は私たちは二回塗りにしています。
塗れば塗るほど艶がでて美しくなります。加工場で部品として塗るときはもっとたくさんの回数を塗るのですが、現場という限られた時間の中では二回塗りがベストだと考えています。
一日めの午後に一回塗り、乾燥させて二日目の午前中に二回目の塗装を終えています。
これが塗りあがって乾燥した姿です。
艶のある美しい茶色に仕上がりました。
木の色のお風呂も良かったですが、艶のある板壁は光を綺麗に反射してこれもまたいい雰囲気のお風呂に変身しました。
沢田欣也氏曰く、夜お風呂を暗くして入浴すると月明かりが反射しておすすめだとのことです。
お風呂のカビというネガティブな話題でしたが、結果的に住まい手に喜んでもらえて良かったです。
私たちはヒノキの板張りのお風呂をおすすめしています。
そしてなるべくカビが生えないように注意して設計していますし、カビが生えないお宅の方が多いのは事実です。
ただ、絶対に生えないということは無いということは頭に入れておいていただかないといけません。
だからと言ってヒノキの板張りのお風呂は嫌だ!となるのはもったいないと思います。
また、「絶対にカビさせてはいけない!」と気を張って生活するのもしんどくなってしまいます。
今回のように、カビが生えたとしてもリカバリーのしようはいくらでもあります。
あまり思い詰めすぎず、「カビても何とかなるや」と気楽に採用していただくことが楽しい気持ちでヒノキのお風呂を楽しみながら付き合っていただく秘訣なのではないかと思います。
毎日のお風呂時間がヒノキの香る豊かな時間になれば最高です。
ご興味のある方はぜひご相談ください。
WASH建築設計室 日野弘一