非常勤講師として勤めている大阪工業技術専門学校OCTの大工技能学科の卒業制作の2019年度の展示がありました。
今年も学生による力作がたくさんできあがりました。
一回目に続き後編の報告です。
川床1
作品番号6は川床です。
川床というのは、有名なのは京都の鴨川の川床でしょうが今回は大阪府吹田市の万博公園の日本庭園の中に設置させていただくという案件になります。
この川床は、川床自体に段差を設け、そこに腰掛けたりすることができるようになっています。
たかが段差と思われるかもしれませんが、それを造るためには加工が複雑になります。
デッキの板との段差を渡顎で綺麗に納めているところが私のお気に入りです。
手すりはあえて低く抑えてスッキリとしたデザインになっています。
また手すりの納まりは作品番号4の”一坪テラス”と同じで非常に難易度の高い納まりを選んでいます。しっかりとした架構は裏から見ても美しくできています。
川床2
作品番号7も川床です。
同じく大阪府吹田市の万博公園に寄贈されます。
こちらは床はフラットにしていて、真ん中に四角いベンチを造って腰掛けられるようになっています。
見所は四方の手すりの形です。八角形に加工した手すりがクロスしていますが、どのように納めているかわかるでしょうか?親方と相談して上手にきまっています。
ちなみに後日になりますが、万博公園に実際に設置にってきた様子です。
私も事務所が近いので、また一度行ってみたいところです。
リクライニングチェア
作品番号8番は家具です。リクライニングチェアを造りました。
今までの大きな構造物とは異なり、より精度の高さが求められる作品です。
針葉樹であるヒノキで造られていますが、座った時の強度も申し分なく意外と座りやすかったです。ただの椅子で終わらず、背もたれの勾配が三段階で調整できるのがミソです。
一級技能士課題
作品番号9,10は一級技能士の課題に挑戦した作品です。
大工技能検定の一級なのですが、振れ隅木を造っています。
学校のカリキュラムで大工技能検定の二級までは授業で行っていますがその上のレベルの一級の課題を造ってみるという作品です。
一級は非常に難しく、現職の大工さんでもしっかりと練習しないとなかなか受からないと言われています。そのレベルの課題を、図面から起こして理解することができたらとても力になると思います。
A棟和室内装
作品番号11は和室の造作工事です。
A棟というのは、二年生が夏に行った棟上げ実習の時のA棟で、学校の加工場の中に建てられた小さな建物になります。
そのA棟の一室を使って、和室の造作を行いました。
一番の目玉は格天井。天井の竿縁をを格子状に組んで板をはめていくのですが、この竿縁は台形(のような六角形)になっていて、それぞれが交差する部分を加工するのが大変です。それを精度よく、全数ミスなく加工しなくてはこの天井は出来上がりません。
また床の間の造作も、柱や廻り縁まで丁寧に仕上げています。和室への入り口の枠工事、開口部の工事など、仕上げの作業になる故に他の作品に比べて完成度を求められる作品できたが見事に作り上げていました。
反り屋根
作品番号12番は反り屋根です。
先ほどのA棟の外部に、屋根を造りました。
これは昔の建物で見かける、反り上がった屋根の下地になるのですが、私も実際に造っているのを見て「こうやって造っているのか」と感心しました。
非常にレベルが高いことは見ればわかるのですが、これを学生一人で造った作品というのが驚きです(ある程度親方も手伝ってはいるとはいえ)。
今はあまり造られることのない伝統的な納まりを、身を以て理解できたであろうことはとても力になったと思います。
これで今年度の作品は全て紹介し終えました。
今年度で私は講師の2年目を終えたことになりますが、卒業制作は各自気持ちがこもっていてとても見応えがありました。計画の段階からここまで形になるまでのプロセスも一緒に辿ってきました。順調なグループから紆余曲折するグループまで見ていたのでこうやって完成したものをみると安堵感と同時にある種達成感もありました。
この経験が、卒業をしていった学生たちの職人生活の糧に少しでもなればいいなと思うとともに、みんなが充実した社会人生活を送ることを願います。またいつか、一緒に仕事をする日が来れば最高です。
WASH建築設計室 日野弘一